恨なき殺人
うらみなきさつじん
初出:「新日本」1917(大正6)年9月号分量:約70分
書き出し:一七月初めの日が頭の上でカンカン照りはじめると、山の中は一しきり、ソヨリとした風もなくなっていた。マンゴク網を辷り落る鉱石の響きも、トロッコのきしる音も、すべてが物憂くだらけ切っていた。草木の葉はぐんなりと萎れて、ただ山中一杯にころがっている岩のかけらや硅石の破片《かけ》が、燃えるような日の光りに焦がされてチカチカと、勢いよく輝いているばかりであった。坑外で働いている者は、掘子も選鉱女も、歌一つ謳...