桑の実
くわのみ
初出:「国民新聞」1913(大正2)年7月~10月分量:約224分
書き出し:一おくみが厄介になつてゐるカッフェーは、おかみさんが素人《しろと》の女手でやつてゐられる小さい店だけれど、あたりにかういふものがないので、ちよい/\出前もあるし、お客さまもぼつ/\来て下さるので、人目にはかなりにやつて行けるらしく見えたが、中へ這入《はひ》つて見ればいろ/\あれがあつて、おかみさんは、月末になると、よく浮かない顔をして、ペンと帳面を手に持つたまゝ、茫《ぼん》やりと一つところを見つめ...