ハビアン説法
ハビアンせっぽう
初出:「朝日評論」1950(昭和25)年1月分量:約20分
書き出し:昨日はよつぽど妙な日だつた。日曜のくせにカラリと晴れた。これが第一をかしい。無精な私が散歩に出る気になつた。これも妙だ。北条の腹切り窟《やぐら》の石塔を、今のうちに撮影しておかうなどと、殊勝な心掛をおこした。これが第三にをかしい。おまけにまた……いや、順を追つて話すとしよう。とにかく、カメラをぶらさげて家を出た。Nといふ小川を渡る。そこから爪先《つまさき》あがりになつて、やがて細い坂道にかかる。そ...