「東の渚」の感想
東の渚
ひがしのなぎさ
初出:「青鞜 第二巻第一一号」1912(大正元)年11月1日

伊藤野枝

分量:約1
書き出し:東の磯の離れ岩、その褐色の岩の背に、今日もとまつたケエツブロウよ、何故にお前はそのやうにかなしい声してお泣きやる。お前のつれは何処へ去たお前の寝床はどこにある——もう日が暮れるよ——御覧、あの——あの沖のうすもやを、何時までお前は其処にゐる。岩と岩との間の瀬戸の、あの渦をまく恐ろしい、その海の面をケエツブロウよ、いつまでお前はながめてるあれ——あのたよりなげな泣き声——海の声まであのやうにはやくか...
更新日: 2025/03/15
72783df90e06さんの感想

 伊藤野枝17歳の『青鞜』デビュー作。この作品は当時は当たり前であった娘の結婚は親が決めるという習俗に対する抵抗と出発の詩である。  2年間の東京での女学校生活を終えた野枝を待ち受けていたのは郷里での見ず知らずの男との結婚であった。野枝は思う。自分の心も体も自分のもの。自分の生き方は自分で決める。私はもっと勉強して筆で身を立てて行きたいのだ。結婚は嫌だ。しかし、野枝の気持ちを理解する者は誰もいない。わがままをいうな。おまえのためを思って決めた結婚だ。黙って従っていれば幸せになれる。  体をこわし床に伏す毎日、今宿の海辺に立つ野枝。この苦しみから逃れるにはいっそ海に飛び込んで…。だが、野枝が選んだのは死ではなく、強制された結婚を拒否して郷里から飛び翔ち、『青鞜』と共に自由な自己の道を歩いて行くことであった。  自由と女性の解放を求めて書き、闘い、生きた伊藤野枝の出発の詩-記念碑的作品である。