越後獅子
えちごじし
初出:「新青年」博文館、1926(大正15)年12月分量:約20分
書き出し:(一)春も三月と言えば、些《すこ》しは、ポカついて来ても好いのに、此二三日の寒気《さむさ》は如何だ。今日も、午後《ひるすぎ》の薄陽の射してる内から、西北の空ッ風が、砂ッ埃を捲いて来ては、人の袖口や襟首《えりくび》から、会釈《えしゃく》も無く潜り込む。夕方からは、一層冷えて来て、人通りも、恐しく少い。三四日前の、桜花でも咲き出しそうな陽気が、嘘の様だ。辰公《たつこう》の商売は、アナ屋だ。当節|流行《...