キャラコさん
キャラコさん
10 馬と老人
10 うまとろうじん初出:「新青年」博文館、1939(昭和14)年11月号分量:約27分
書き出し:一秋が深くなって、朝晩、公園に白い霧がおりるようになった。低く垂れさがった灰色の空から、眼にみえないような小雨がおちてきて、いつの間にかしっとりと地面を濡らしている。樹々の幹も、灌木も、草も、みな、くすんだ煤黝《ビチューム》色になり、小径の奥の瓦斯灯が、霧のなかで蒼白い舌を吐いている。風の吹いたあくるあさは、この小さな公園はすっかり落葉で埋まってしまう。桐や、アカシヤや、赤垂柳《あかしで》などの葉...