半七捕物帳
はんしちとりものちょう
60 青山の仇討
60 あおやまのかたきうち分量:約57分
書き出し:一読者もすでに御承知の通り、半七老人の話はとかくに芝居がかりである。尤も昔の探索は、幾らか芝居気が無くては出来なかったのかも知れない。したがって、この老人が芝居好きであることもしばしば紹介した。日清戦争が突発するふた月ほど前、明治二十七年五月の二十日過ぎである。例のごとく日曜日の朝から赤坂の宅へ推参すると、老人はきのう新富座を見物したと云った。「新富は佐倉宗吾でしたね」「そうです、そうです。九蔵の...