ながうた勧進帳
ながうたかんじんちょう
(稽古屋殺人事件)
(けいこやさつじんじけん)初出:「月刊探偵」黒白書房、1936(昭和11)年5月号分量:約32分
書き出し:一師匠の名は杵屋花吉《きねやはなきち》と申されました。年は二十三、まだ独身でございました。何んでも、七つか、八つの時から、長唄のお稽古を始められたのだそうでございまして、十七の春には、もう、立派な名取さんであった、というのでございますから、聡明なお方には、違いなかったでございましょう。しかし、それにいたしましても、あの傍の見る目もいじらしい程な、お母さんのきついお仕付けがございませんでしたならああ...