風景
ふうけい
初出:第一稿「山繭 第十号」1926(大正15)年3月1日、改稿「文學 第六号」1930(昭和5)年3月1日分量:約9分
書き出し:波止場の附近はいつものやうに、ぷんぷん酒臭い水夫や、忙しさうに陸揚してゐる人夫どもで一ぱいだつた。僕はさういふさなかを窮窟さうに歩くといふよりも、むしろ人氣のなささうなところを、ところを、と拾ひながら歩いてゐた。すると突然、僕は或るへんてこな一區域に迷ひ込んでしまつたのである。しかし僕がそこをへんてこなところだなと思つたのは、次の瞬間、人が始めて風景といふものを見たやうな驚きに一變してゐた。そこは...