雨後
うご
初出:「東京朝日新聞」1938(昭和13)年7月7日、9日分量:約2分
書き出し:六月二十日これでもう山小屋に雨に降りこめられてゐること一週間。——「雨の輕井澤もまたいいです」などと友達に手紙を書いてゐた女房も、きのふあたりから少し氣が變になつてゐはしないかと思ふ位。——何しろ、樅の木なんぞの多い山のなかの一軒家だものだから、雨の音が騷がしいほど大きく、それがまた絶えずさまざまな物音に變化して聞える。子供の頃聞き慣れた支那語の唄がとぎれとぎれになつて聞えてくるなどと女房が不意に...