小坂部姫
おさかべひめ
初出:「婦人公論」1920(大正9)年10月号~分量:約256分
書き出し:双《ならび》ヶ|岡《おか》一「物|申《も》う、案内《あない》申う。あるじの御坊おわすか。」うす物の被衣《かつぎ》の上に檜木笠を深くした上※ふうの若い女が草ぶかい庵《いおり》の前にたたずんで、低い優しい声で案内を求めた。南朝の暦応三年も秋ふけて、女の笠の褄《つま》をすべる夕日のうすい影が、かれの長い袂にまつわる芒《すすき》の白い穂を冷たそうに照らしていた。一度呼んでも、内では答えがなかった。二度、三...