鼻に基く殺人
はなにもとづくさつじん
初出:「文学時代」1929(昭和4)年5月号分量:約15分
書き出し:「もうじき、弘《ひろむ》ちゃんが帰ってくるから、そうしたら、病院へつれて行って貰いなさい」由紀子は庭のベンチに腰かけて、愛犬ビリーの眼や鼻をガーゼで拭《ぬぐ》ってやりながら、人の子に物言うように話すのであった。「ほんとうに早くなおってよかったわねえ、お昼には何を御馳走してあげましょうか」ビリーはまだ、何となく物うげであった。彼は坐ったまま尾をかすかに振るだけであった。呼吸器を侵されて、一時は駄目か...