堀辰雄
掴みどころの無い回想が多かったが、植物と共に生活する豊かさと経済的困窮の対比が美しい作品だった。老人の儚い老後や、かつてそこにあったはずの人・植物・建物を懐古する主人公の心のやり場のなさが、変化する時代のあはれを局所的かつ繊細に表していた。しかし題にあるように、かつては咲いていなかった朴の花もまた美しいものである。爺が亡くなり豆の花は消え、しかし朴が咲くようになった山は、避けられない時代の変化に美しさを見出そうとする主人公の前向きな諦念そのものである。