謎の女
なぞのおんな
初出:「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号分量:約23分
書き出し:一左手には三浦半島から房総半島の淡い輪郭が海の中に突きだしている。右手には伊豆半島の東側の海岸線が鋸歯《きょし》状に沖へ伸びている。正面には大島が水平線に浮いて見え、遥か手前には、初島がくっきりと見える。すぐ眼《め》の下には、熱海駅前の雑踏や、小学校のグランドに飛びまわっている子供らの声が、雲雀《ひばり》の囀《さえず》るように聞こえる。龍之介はMホテルのテラスの籐椅子《とういす》に背をもたせて、身...