半七捕物帳
はんしちとりものちょう
43 柳原堤の女
43 やなぎわらどてのおんな分量:約77分
書き出し:一なにかの話から、神田の柳原の噂が出たときに、老人はこう語った。「やなぎ原の堤《どて》が切りくずされたのは明治七、八年の頃だと思います。今でも柳原河岸の名は残っていて、神田川の岸には型ばかりの柳が植えてあるようですが、江戸時代には筋違橋《すじかいばし》から浅草橋までおよそ十町のあいだに高い堤が続いていて、それには大きい柳が植え付けてありましたから、春さきの眺めはなかなかよかったものです。柳原の柳は...