「けふは仏の日だから特別にお経を読んでくれ、などといふ事もあるでせう······」 「さうした時にはお布施を貰ひます。然し金を持つと、行乞は出来ませんよ、気持ちがうそになります、自分で其の気持ちが恥ずかしくなります、そんなときは、早く泊まってしまって、本を読んで暮らすのです」 皆はまた笑った。 だが、彼のいふところは真実だ。 食ふに足りるものを持ってゐながら、物を乞うというのは、貯える心である。 貯へることは、明日は与えられぬかもしれないと用意する心である。 それは、生を大自然に托しきった心ではない。 正しく与へられる事の幸を得る為には、正しく持たないといふことの境涯になりきらねばなるまい。 何物をも持たぬがゆえに、一切の物を有していることができる。