「蝿」の感想
はえ

原民喜

分量:約6
書き出し:秋も大分深くなって、窓から見える芋畑もすっかり葉が繁った。田中氏は窓際の机に凭って朝食後の煙草を燻《くゆら》して、膝の上に新聞を展げてゐた。さうしてゐると、まだ以前の習慣が何処かに残ってゐるやうで、出勤前のそはそはした気持になるのだった。今、湯殿では妻が洗濯してゐる音が聞える、彼は不意とその方へ声が掛けたくなる衝動を抑へて、静かにぢっと耳を澄ました。すると気の所為か、妻は時々何か思案しながら洗濯し...
更新日: 2018/06/18
まんまるさんの感想

ありますよねぇ、こういう心理状態って。 人は誰でも人生において思いがけない苦しみを味わったりしたり、思った様な人生を送れなかったりしてリタイアした心境で生きる時期ってあると思います。 蜘蛛の巣に掛かったコオロギが目に留まったり、空の青さにハッとしたり、身近な伴侶の尊敬すべき所に今更ながらに気付いたりね。 色んな事諦めて生きてる筈なのに、蠅とか蚊とかにムキになってしまったりね。 だから人はいつか前を向いて歩けるようになるのかも。 このご夫婦に幸あれ!

更新日: 2016/08/21
芦屋のまーちゃんさんの感想

クモのえじきになりしコオロギ。 どっちが悪いか判断できぬ。 コオロギの運命は今の自分。 汚職の疑いで辞職し、妻という存在に気づいたサラリーマン。 全ての重圧から解放され、手元足元の視野が広がった。灯台もと暗し! 部屋で本を読んでいると、一匹のハエが気になり、ついに殺してしまう。クモに殺されるコオロギのように。自分はクモの役を演じているのか?コオロギが自分ならハエも自分ではなかったのか! クモ>コオロギ>自分>ハエ こんな食物連鎖はないだろう。