菜の花物語
なのはなものがたり
初出:「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月分量:約9分
書き出し:大和《やまと》めぐりとは畿内《きない》では名高い名所|廻《めぐ》りなのだ。吉野《よしの》の花の盛りの頃を人は説くが、私は黄《き》な菜の花が殆《ほと》んど広い大和国中を彩色《さいしき》する様な、落花後の期を愛するのである、で私が大和めぐりを為《し》たのも丁度《ちょうど》この菜の花の頃であった。浄瑠璃《じょうるり》に哀情《あいじょう》のたっぷりある盲人|沢一《さわいち》お里《さと》の、夢か浮世かの壺坂...