「黒死館殺人事件」著者之序
「こくしかんさつじんじけん」ちょしゃのじょ
初出:「黒死館殺人事件」新潮社、1935(昭和10)年5月分量:約3分
書き出し:「黒死館殺人事件」の完成によって、それまで発表した幾つかの短篇は、いずれも、路傍の雑草のごとく、哀われ果敢《はか》ないものになってしまった。のみならず、本篇が「新青年」に連載中は、褒められるにも、誹《そし》られるにも、悉く最大級の用語を以ってせられた。事実、その渦の中で、私は散々に揉み抜かれたのである。恐らく、日本に探偵小説が出現して以来、かくも私ほど、敵視された作家も、例《ため》しなかったことで...