新訂雲母阪
しんていきららざか
初出:「文藝春秋」文藝春秋、1926(大正15)年10月分量:約15分
書き出し:一「本当にそうか。」と、聞かれると、そうで無いとは云え無い。く、とは確《たしか》に聞いたのだから、これは断言できる。然し次の、る、はそう云ったような、云わないような、何《ど》うも明かで無いが、自分が唯一の証人で大勢の中で、美しい寡婦の悄然《しょうぜん》としている前で「くる、と確に聞いた。」と、云った言葉を「本当か。」と、念を押されると、今更、いや一寸《ちょっと》まってくれ、もう一度、耳に聞いてみる...