「葡萄棚」の感想
葡萄棚
ぶどうだな

永井荷風

分量:約6
書き出し:浅草《あさくさ》公園の矢場《やば》銘酒屋《めいしゅや》のたぐひ近頃に至りて大方取払はれし由《よし》聞きつたへて誰《たれ》なりしか好事《こうず》の人の仔細らしく言ひけるは、かかるいぶせき処のさまこそ忘れやらぬ中《うち》絵にも文《ふみ》にもなして写し置くべきなれ。後に至らば天明時代の蒟蒻本《こんにゃくぼん》とも相並びて風俗研究家の好資料ともなるべきにと。この言あるいは然《しか》らん。かの唐人《とうじん...
更新日: 2022/03/19
3afe7923d6ecさんの感想

これから出かける用事があるのだが、いま家を出てしまうと、先方に着いてから大分時間が余ってしまい、何もない出先でイライラと無駄な時間を潰さなければならなくなって、かえってそれでは具合が悪い。 あと30分程でいいのだが、適当な時間潰しはないものかと、あれこれ考えた。 新聞は今朝読んでしまったし、テレビなど見る気にならない。 憂鬱な戦争のニュースばかりだ。 これが21世紀の出来事なのかと目を疑う、 一国の指導者の気まぐれひとつで、人の住む街を砲撃して瓦礫の山にし、そのうえ幼児や妊産婦まで殺してしまう狂気を前にして、止めるための有効な手立てというものが、なにひとつないのだから、その無力さには、心から呆れる。 日頃キャンキャン吠えている「平和主義者」たちは、どこに雲隠れしてしまったのだ、大方、豪邸の一室で、議員報酬の札束をほくそ笑みながら数えているに違いない。 ニュースは駄目だ、あまりにも深刻になりすぎて、いまや時間潰しというカテゴリーからは完全に外れてしまった。 それに、you tube などみていたら、変に嵌まって、時間を失念して約束の時間を徒過しかねない。 それもまずい。 そこで思い付いたのが青空文庫だ、ごく短い小説なら、ぐずぐず読んでも、30分を有効に使えそうだ。 文豪永井荷風の小説を、たかが30分の時間潰しに活用させていただくなど、誠におそれ多いことだが、背に腹は変えられない。 そうしよう、決めた。 そこで、何を読むかだ。 検索し、ごく短いが、読むのに相当に骨の折れそうな文語体の「葡萄棚」という小説をチョイスした。 なるほど、なるほど、最初は、「日和下駄」みたいな下町の情景そぞろ歩きものかと思いながら読み始めたのだが、途中からなんか調子がおかしくなってきた。 伝法院の裏手の路地にある銘酒屋のお姉ちゃんに袂を引かれて、ビールを無理やり飲まされる。 お姉ちゃんの出で立ちというのは、こうだ、美しく書かれている。 大きなる潰し島田に紫色の結い綿かけ、まだ肩上げつけし浴衣の撫で肩ほっそりとして小づくりなれば十四五にも見えたり。 もう少しごてごてと言葉を飾って欲しい物足りなさはのこるが、あどけない少女の感じが出ているので良しとしようと思っていた矢先、それからが、ものすごい展開になるので驚いた。 娘は、自分の手を取ってどんどん歩きはじめる。 やがて、庫裡の裏手の葡萄棚のある離れ座敷のひと間に連れ込んで、さっさと蒲団をひき始めたとある。 さて、なにが始まるのでしょうか。 期待を込めて、その先を読むが、なぜか描写は大きく飛んで、こうなる。 「やがて女はわが身を送り出でて再び葡萄棚の蔭をすぐる時熟れる一総の取り分けて低く垂れたるを見、栗鼠のやうなる声立ててわが袖を捉へ忽ちわが背によぢつ」か。 なかなか綺麗な文章だが、なにせこちらは、蒲団をひいた後になにがあったのか、「あっちに転がしたり、こっちに転がしたり」が知りたいのにさあ、 はしょるなんて、ずるいぞ、ずるいぞ、ほんとにぃ~! あっ! しまった、時間に遅れた!