食道楽
くいどうらく
春の巻
はるのまき初出:「報知新聞」1903(明治36)年1月3日~3月30日分量:約453分
書き出し:緒言小説なお食品のごとし。味佳なるも滋養分なきものあり、味淡なるも滋養分|饒《ゆたけ》きものあり、余は常に後者を執《と》りていささか世人に益せん事を想《おも》う。然《しか》れども小説中に料理法を点綴《てんてい》するはその一致せざること懐石料理に牛豚の肉を盛るごとし。厨人《ちゅうじん》の労苦尋常に超《こ》えて口にするもの味を感ぜざるべし。ただ世間の食道楽者流|酢豆腐《すどうふ》を嗜《たしな》み塩辛を...