鮎の試食時代
あゆのししょくじだい
初出:「星岡」1935(昭和10)年分量:約3分
書き出し:あゆがうまいという話は、味覚にあこがれを持ちながら、自由に食うことのできない貧乏書生などにとっては、絶えざる憧憬《しょうけい》の的である。わたしも青年の頃、ご多分に漏《も》れず、あゆを心ゆくまで食いたいと夢にまでみた時代があった。この夢を実現したのは二十四、五歳のころであったろうか。もちろんそれまでにあゆを全く口にしなかったわけではない。だが、あゆ通の喜ぶ上等のあゆによって、あゆの美味をテストする...