棚田裁判長の怪死
たなださいばんちょうのかいし
初出:「オール読物」1953(昭和28)年5月分量:約63分
書き出し:一家老屋敷その不可解な死を遂げた判事の棚田晃一郎氏だけは子供の時分からよく知っています。私とは七つ八つくらいも年が違っていたかも知れませんから、学校や遊び友達が一緒だったというのではありませんが、棚田の家は広い田圃《たんぼ》を距《へだ》てて私の家とちょうど向合いになっていました。私の父はその頃この小さな町の農事試験場の技師をして、官舎に住んでいましたが、田圃を距てた埃《ほこり》っぽい昔の街道の向う...