出発
しゅっぱつ
初出:「新潮」新潮社、1912(大正元)年11月分量:約51分
書き出し:時計屋へ直しに遣《や》つてあつた八角|形《がた》の柱時計が復《ま》た部屋の柱の上に掛つて、元のやうに音がし出した。その柱だけにも六年も掛つて居る時計だ。三年前に叔母《をば》さんが産後の出血で急に亡くなつたのも、その時計の下だ。姉のお節《せつ》は外出した時で、妹のお栄《えい》は箒《はうき》を手にしながら散乱《ちらか》つた部屋の内を掃いて居た。斯《こ》の姉妹《きやうだい》が世話する叔父《をぢ》さんの子...