格差の固定化はこの頃既にあったということか。
新太郎は、なぜ以前働いていた料理屋の人々に逢いたくなったのか、単なる懐かしさからだけではない。最初の書き出しの部分、店の人々を回想するなかのひとり、上田という料理番を回想するところでは、わざわざ「けんつくをくわせた」とさりげなく付け加えている。戦争直後、多くの人々が窮迫して困難な生活を強いられているとき、うまい具合に仕事にありついて金回りの良くなった新太郎は、気が大きくなってむかし自分をさんざんこき使っていた連中を見返してやりたいという思いで、おかみさんの移転先を執拗とも思える情熱を傾けてたどっていったのだと思う。しかし、久しぶりに会った彼らは、相変わらず余裕のある生活を送っていて、彼らの前では昔のままの使用人でしかない。いつまで経っても金持ちは金持ち、貧乏人は貧乏人でしかないのだと、苦渋のなかで悟った新太郎は、その帰り道で、分相応な精一杯の贅沢「高価な羊羮」を買ったということなのだろうか。
スッキリとした文体でとても読みやすかったので、一気に読みきった。義理と人情、そして、男心。