数十年ぶりかで再読した。自分の薄れた記憶では、この小説をすっかりお糸長吉の悲恋物語として記憶に刻印してしまっていたが、今回再読して、それは物語のほんの一部、いやむしろ恋愛にまで至っていないような痛ましい片想いの物語にすぎず、その思いも報われないまま、最後などは、お糸からすっかり忘れられているのではないかと思うくらいの孤独感のなかで長吉は自分を持て余して出水の夜の街をさ迷っている。誰からも見捨てられてしまったような絶望感のなかで、もう死んでしまっても構うものかと、思いつめて冷たい泥の中を一心に歩き続ける長吉の姿が痛ましい。
鐵道馬車が 電車に換わった頃の 話なので 変遷目まぐるしく 地誌として読むより 風情を楽しむ方が よいかもしれない。 荷風の 海外遊学あとの作品ということにも 惹かれる。