54 蜻蛉
紫式部
当時は 広く 姫の失踪という 出来事は さほど 珍しくは なかった らしい。御遺体の ないままに 夜着などを 取り纏めて 火葬に ふして しまったようにも 見受けられる。とはいえ 何と言っても 遺体無しで 着衣を 荼毘に 取り急ぎ ふすなどは 大方の 疑心暗鬼を まねくので 厳重な 箝口令を しいた。ホトトギスが なきわたりつつ 飛び去る 夏の夕暮れに 世の中の 無情を ひとり つぶやくは さもありなんと 想った。