「脱帽」の感想
脱帽
だつぼう

斎藤茂吉

分量:約4
書き出し:一もうそろそろ体に汗のにじみ出るころであつたから、五月を過ぎてゐたとおもふ。途中で買つた医学の古書をば重々と両脇にかかへて、維也納のシユテフアン寺のなかに入つて行つた。それは疲れた体を休め、汗をも収めるつもりであつたのだが、両脇に書物の包をかかへてゐるために、向うの祷卓のところまで行つて、それから帽子を脱がうとおもひ、寺の中のうすぐらい陰気な石の床上を歩いて行つた。いまだ卓までは十数歩もあらうかと...
更新日: 2018/08/16
いちにいさんの感想

ある寺では、帽子を脱げ、と注意され、ある殿堂では、帽子をかぶれ、と促される。 踏んだり蹴ったり、である。 しかし、他人に指図されるほど、ムカつくことはないだろう。親兄弟配偶者でも時と場合では、腹が立つが、赤の他人から叱責されるなんて、いくら当方が常識外れの行為をしたとしても、素直に謝罪する気になれない、心境よくわかる。 ましてや、一度の失敗を次には改めたのに、それが逆だったのだから、何ともヤりきれない。気の毒だ! こんな日もあるさ!と言ってやりたい。