回顧と展望
かいことてんぼう
初出:「改造」1941(昭和16)年分量:約26分
書き出し:回顧は老人の追想談になるのが普通で,それは通例不確かなものであることが世間の定評であるようであります.それは当然不確かになるべきものだと考えられます.遭遇というか閲歴というか,つまり現在の事だって本当には分らない.それは当然主観的である.しかも過去は一たび去って永久に消滅してしまう.そうしてそれを回想する主観そのものも年とともに易《かわ》って行くのであるから,まあ大して当てになるものではない.これ...