春がくる前
はるがくるまえ
初出:「まなびの友」1921(大正10)年3月分量:約9分
書き出し:さびしい野原《のはら》の中《なか》に一|本《ぽん》の木立《こだち》がありました。見渡《みわた》すかぎり、あたりは、まだ一|面《めん》に真《ま》っ白《しろ》に雪《ゆき》が積《つ》もっていました。そして、寒《さむ》い風《かぜ》が、葉《は》の落《お》ちつくしてしまった枝《えだ》を吹《ふ》くのよりほかに、聞《き》こえるものもなかったのです。木《き》は、こうして毎日《まいにち》、長《なが》い寒《さむ》い冬《...