「九月朔日」の感想
九月朔日
くがつさくじつ
初出:前半の(三一・九)「春燈 第十一巻第九号」春燈社、1956(昭和31)年9月1日

伊庭心猿

分量:約4
書き出し:市電は、三筋町で二三人おろすと、相變らず單調な音をきしらせ、東に向つてのろのろと進んだ。なまぬるい風、灼けつくやうな舗道のてりかえし。——その時である。まだ停留所までだいぶあるのに、車體が左右に大きく横搖れして、急に停つた。乘客は、いつせいに窓の外をみた、いちめんの土煙だ。兩側の家が、屋根瓦をとばし、壁をくづし、柱をねぢまげ、前につんのめつた。黒塗の土藏が、一ト搖れしたかと思ふとみるまに赭土色の殘...
更新日: 2019/09/16
ハルチロさんの感想

本作品は、著者が俳句の師と仰ぐ、「大正俳壇の石川啄木」と称された冨田木歩を回想したものです。本作品の表題『九月朔日』ーー大正12(1925)年9月1日ーーは、冨田木歩の命日に当たります。冨田木歩は、南関東大地震(関東大震災)で被災し、焼死されました。敬愛する師の非業の最期を悼む著者の思いが、行間から窺える作品です。