「雨月物語」の感想
雨月物語
うげつものがたり

04 解説

04 かいせつ初出:「雨月物語」角川文庫、角川書店、1959(昭和34)年11月30日

鵜月洋

分量:約21
書き出し:「雨月物語《うげつものがたり》」は、安永五年(一七七六)に出版された、五巻五冊、全九話を収めた、いわば短篇小説集で、著者は上田秋成《うえだあきなり》であり、これを近世小説のジャンルでいえば読本《よみほん》とよばれるものであるが、その文学的性格にそくしていえば、伝奇小説、時代小説、怪異小説、翻案小説などとよんでいいものである。——このアウトラインにしたがって、簡単な解説をこころみておくことにしたい。...
更新日: 2024/04/21
19双之川喜41さんの感想

 「白峰」(はくほう)    讃岐(さぬき)の  白峰に 杖(つえ)を 曳(ひ)いた 西行(さいぎょう)は 崇徳院(すとくいん)の  陵墓(りょうぼ)で 亡き院の 霊を 慰めようとして ねんごろに 供養(くよう)を しながら 歌一首を 手向けたところ 忽然(こつぜん)と  姿 を 姿を現した 院の 亡霊は 生前の 我が身の 不遇を かこち 人々への 深い 怨念(おんねん)を 西行法師に 告る。妄執(もうしつ)を 捨てて 成仏(じょうぶつ)したまえとの 再三にわたる 諌言(かんげん)が 容れられないのを 覚った 西行法師は さらに 心を込めた歌を 崇徳院に 捧げた。すると 崇徳院の 亡霊は 瞬く間に その 恐ろしい姿を 消し去った。  「菊花(きくか)の約(ちぎり)」     出雲の武士  赤穴(あかな)宗右衛門(そうえもん)は 旅の 途中に 播磨(はりま)で  病に 倒れるけど 好学の士 丈部左門(はせべさもん)の  手厚い 看病(かんびょう)により 一命を とりとめる。やがて 二人は 兄弟の 契りを 交わすけど 赤穴は 使命(しめい)を 果たすため 九月九日の 菊の節句の 再会を 約して 出雲に向かう。奸臣(かんしん)の 策略(さくりゃく)によって 約束を 果たせなくなった 赤穴(あかな)は やむなく 自害して 亡霊(ぼうれい)となって 丈部(はせべ)のもとを 訪れる。その 義侠心(ぎきょうしん)に 感動(かんどう)した 丈部(はせべ)は 赤穴(あかな)を 拘禁(こうきん)した 丹治を 惨殺(ざんさつ)して 仇(あだ)を討つ。  「浅茅(あさじ)が宿」      下総(しもふさ)の 富農(ふのう)に 生まれた 勝四郎は 野良仕事(のらしごと)が 嫌で 妻の 宮木に 留守を させて 京に 商いに 上るけど 間もなく 関東一円は 兵乱の 巷(ちまた)と 化し そこで 帰郷を 一旦(いったん)は  あきらめる。七年後に せめて 妻の 菩提(ぼだい)を 弔(とむら)おうと 荒れた 我が家に 戻った 勝四郎は 意外にも 待ちわびていた 妻と 再会する。涙ながらに 久閣を 叙した 夫婦は 共に 寝に 就いたけど 目を 醒(さ)ました 勝四郎の 傍(かたわ)らには 妻は なく 自身は 草叢(くさむら)の 中に 居た。  「夢応(むおう)の鯉魚(りぎょ)」  三井寺の僧 興義は 世間に 名高い 絵師でもあったけど あるとし 病に倒れて 息絶えた。胸が 温かかったので 弟子達は 三日間 彼を 葬らずに 見守っていると やがて 息を 吹き返した。興義は 昏絶中(こんぜつちゅう)に 自分は 鯉となり そのまま 湖の中を 逍遥(しょうよう)していると ついに 漁師によって 吊り上げられて  刺身に されそうになった ことを 弟子達に 語った。その夢の 内容を すべて 檀家(だんけ)の  平の助の 屋敷に 問い合わせたところ 実際の 出来事と 一致していた。  「仏法僧(ぶっぽうそう)」  我が子と 共に 高野山に 詣(もう)でた 夢然は 山頂で 一夜を 過ごすことになる。 深夜 そこに 貴人(きじん)の 一団が 訪れ 宴(うたげ)を 開くけど 彼らは 関白(かんぱく)秀次(ひでつぐ)を 首領(しゅりょう)とする 亡霊(ぼうれい)の 一群(いちぐん)であった。夢然親子は 亡霊に 見つけだされ 一句を 所望(しょもう)された後に 修羅(しゅら)への 同行(どうこう)を 迫られた。翌日 気絶(きぜつ)していた二人は 朝露で 目を醒(さ)ました。  「吉備津の釜」  吉備の国の 井澤庄太夫には 酒色(しゅしょく)に溺れ 身持ちの 定まらぬ 一子(いっし) 正太郎がいた。庄太夫は 腐心(ふしん)のすえ 神主の娘で 貞淑(ていしゅく)な 磯良(いそら)を 花嫁に迎え 正太郎も 更正したかに 見えたけど 生来(せいらい)の 浮気性は 収まらず 遊女と 出奔(しゅつぽん)してしまう。その女の 従兄弟(いとこ) 彦六の もとに 身を寄せた 正太郎は やがて 女に 死なれ 墓参(ぼさん)の 折りに 懇意(こんい)になった 女の 導(みちび)きで 自分への 恨みで 悶死(もんし)していた 磯良の 霊に 出くわし 肝をつぶす。取り殺されてはと 陰陽師(いんようし)に  すがり 四十一日間 家に 篭(こも)って 神仏(しんぶつ)を 念じた 正太郎は 忌明(きあ)けの日に すでに 夜が明けたと 思って 隣の 彦六に 声をかけた。彦六が 正太郎を 招じ入れようとした 刹那(せつな) 叫び声が 耳をつき 駆けでた 彦六の 眼には 戸の脇の 壁に着いた 血糊(ちのり)と 軒端(のきば)にかかった 男の 髻(もとどり)だけが 映った。   「蛇性(じゃせい)の淫(いん)」  紀の国の 網元(あみもと)の 息子に 豊雄という 文弱(ぶんじゃく)の輩(やから)がいた。雨宿りで 知り合った 真奈子という 美女と 割(わり)なき仲と なったけど 女から 貰(もら)った 宝刀(ほうとう)のため 盗人の 嫌疑(けんぎ)を受けた。身の 潔白(けっぱく)を 証明するために 捕吏(ほり)を 女の家に 案内すると そこは すでに 廃屋(はいおく)に なっていて 女は 雷雨(らいう)と ともに 消え去る。豊雄は 親戚(しんせき)の 家で 蘇生(そせい)するけど 真奈子は そこにも 現れ ついに 二人は 結婚する。後に 真奈子は 蛇の 本性を 現して 滝壺(たきつぼ)に 飛び込む。豊雄は 再び 生家に 戻り 新妻(にいづま)を 娶(めと)るけど この 新妻である 富子に 真奈子の 霊が 取り付き 大騒ぎとなる。霊力に 強いという 名だたる 法師(ほうし)も 折伏(しゃくぶく)できず 豊雄は 道成寺(どうじょうじ)の 法海和尚(ほうかいおしょう)に 泣きつき 和尚から もらった 袈裟(けさ)を もって ついに 真奈子の 正体である 白蛇(はくじゃ)を とらえた。和尚(おしょう)は その 蛇(へび)を 鉢(はち)に 納め 地に埋(う)めて 未来永劫(みらいえいごう)に わたって 世に出るなと 戒(いさめ)た。