私本太平記
しほんたいへいき
01 あしかが帖
01 あしかがじょう分量:約332分
書き出し:下天地蔵《げてんじぞう》まだ除夜の鐘には、すこし間がある。とまれ、ことしも大晦日《おおつごもり》まで無事に暮れた。だが、あしたからの来る年は。洛中の耳も、大極殿《だいごくでん》のたたずまいも、やがての鐘を、偉大な予言者の声にでも触《ふ》れるように、霜白々と、待ち冴えている。洛内四十八ヵ所の篝屋《かがりや》の火も、つねより明々と辻を照らし、淡い夜靄《よもや》をこめた巽《たつみ》の空には、羅生門の甍《...