私本太平記
しほんたいへいき
02 婆娑羅帖
02 ばさらじょう分量:約336分
書き出し:乱鳥図《らんちょうず》都は紅葉しかけている。高尾も、鞍馬も。その日、二条加茂川べりの水鳥亭《すいちょうてい》は、月例の“文談会《ぶんだんかい》”の日であった。流れにのぞむ広間の水欄《すいらん》には、ちらほら、参会者の顔も見えはじめ、思い思いな水鳥の群れに似た幾組かを、ここかしこに作りあっていた。「いいなあ、秋の水音は」「肌ごこち、なんともいえぬ。河原は昼の虫の音だし……」また、べつな組では。「——...