私本太平記
しほんたいへいき
04 帝獄帖
04 ていごくじょう分量:約316分
書き出し:山門の二皇子ここで日と月は、少し以前へもどるが。足利家の大蔵邸に預けられていた囚人僧《めしゅうどそう》のひとり忠円が、鎌倉表から越後へ流されて行った前後に、その忠円の密使らしい者が、叡山《えいざん》の坂本にある山門の別当へ、「なにとぞ、これを大塔《だいとう》ノ法親王《ほうしんのう》さまへ、お直々《じきじき》に」と、一書を投じて去った事実がある。それが誰だかわからない。流罪の僧に、そんな書状を差し立...