私本太平記
しほんたいへいき
05 世の辻の帖
05 よのつじのじょう分量:約300分
書き出し:罪《つみ》の暦《こよみ》先帝《せんてい》後醍醐《ごだいご》の隠岐《おき》遠流《おんる》。二皇子の四国流し。その日は近かった。あと二日ほどでしかない。洛中は車馬のうごきにも緊迫した時局が見えて、不気味な流言もまま飛んでいた。「楠木《くすのき》はまだ生きている!」「正成《まさしげ》はまだ死んではいない」「赤坂落城のさい死んだとみせ、じつは大塔ノ宮と共にどこかで指揮をとっている」時も時ではあり、熱病の熱...