私本太平記
しほんたいへいき
06 八荒帖
06 はっこうじょう分量:約296分
書き出し:柳営日譜《りゅうえいにっぷ》十月。晩秋の好晴。北条高時は江ノ島の弁財天《べんざいてん》へ参籠《さんろう》して、船で浜御所へもどる海上の途にあった。「なに。わしを清盛《きよもり》のようだとか?」あの特有なかなつぼ眼《まなこ》で、高時は船中の船酒盛《ふなさかも》りの近習らを、ねめ廻し、「ばかを申せ。すれや元々、北条家は“平家”であるには、ちがいないが」と、ぺろと上唇を舐《な》めた。猫の目より変りやすい...