私本太平記
しほんたいへいき
10 風花帖
10 かざばなじょう分量:約342分
書き出し:野分《のわけ》のあと敗者の当然ながら、直義《ただよし》の三河落ちはみじめであった。淵辺伊賀守の斬り死になどもかえりみてはいられず——敵に追われどおしで、とくに手越河原では残りすくない将士をさらにたくさん失い、今川、名児耶《なごや》・細川、斯波《しば》など一族子弟の討死も幾人かしれなかった。ついに、ここでは直義も進退きわまったとみてか、「腹掻き切って、左兵衛《さひょうえ》ノ督《かみ》(兄尊氏)どのへ...