黒白帖は読むのが大変辛いものでありました。兄と弟、父と子が敵となり争う、それもそれぞれが大将となり相手を殺そうとするほど憎む様子は、本当に悲しいものです。 足利幕府が成立してしばらくは混乱が続いたことはまったく知らなかったので、尊氏は苦悩しながら亡くなったことに同情してしまいました。 もちろん、それは尊氏が自ら招いたものだったのだろうとも思いますが。　 物語の締めくくりが尊氏のいとこ、覚一法師や戦いとは関係のない人々の会話で終わっているのが、救いでした。 初めのあしかが帖からしばらくは面白い活劇ものの感覚で読んでいたのが、やがて辛い話が続く戦記ものとして読んでいました。それが、覚一法師の登場で気持ちが少しだけあたたかくなりました。

室町時代とは初めから戦国の世と言っても過言ではないが、文化の花拓く時代でもあった。 それは大陸の宋の時代にも似たような…

最初の内はなかなか話が進まない印象でしたが、千早帖あたりから俄然面白くなり、建武らくがき帖からは怒濤の展開で一気に読了しました。 ここからは自分の拙い感想です。 尊氏については、初めは藤夜叉への酷な振るまい等、どうにも好きになれませんでしたが、物語中盤からは次第に常に先を見据えて方々に手を打ち、意外に人情家な面が前面に出るに従い、懐の深い魅力的な人物に思えてきました。史実をベースにしているとは言えフィクションと言ってしまえばそこまでなのですが、 鎌倉幕府と後醍醐天皇、恩義ある存在に対し２度も裏切った悪逆な人物というイメージは無くなりました。 正成については、これも当然実際は清廉潔白なだけの人では無かったとは思いますが、最も感情移入出来る 登場人物でした。彼は、戦乱の止むことなく衆生が苦しむ現世を憂い、戦いを終結させるべく様々な手を打とうとしましたが聞き入れられることなく、敢えなく戦場に消えてしまいます。 悲運の武将正成に対し勝者である尊氏も、幕府を開いたら、後は余裕綽々だったわけでは決してなく、何度も敗戦し都を追われ、一族同士の骨肉の争いにうちひしがれて、何とか安寧を得たのは晩年というかほとんど死の直前と言っても良い有り様で、悩み多き人生であったと思います。 そんな二人が亡くなった後、それぞれの縁の者達が手を携えるラストは何とも感慨深く、本当に読んで良かったなと思った次第です。