旗岡巡査
はたおかじゅんさ
初出:「週刊朝日 初夏特別号」1937(昭和12)年分量:約69分
書き出し:雲雀《ひばり》も啼《な》かぬ日《ひ》一河が吼《ほ》えるように河の底から、船頭の大きな声が、「——船止《ふなど》めだとようっ」「六刻《むつ》かぎりで、川筋も陸《おか》も往来止めだぞうっ」船から船へ、呶鳴り交《か》わしてから触れ合っていた。下総《しもうさ》の松戸の宿場。雪はやっと、降りやんではいたが——きのうからの大雪は、この地方にまでわたっていた。三月の桃の節句だ。雲雀《ひばり》は死んだように黙って...