凍るアラベスク
こおるアラベスク
初出:「新青年」博文館、1928(昭和3)年1月分量:約27分
書き出し:一風の寒い黄昏《たそがれ》だった。勝子《かつこ》は有楽町駅の高い石段を降りると、三十近い職業婦人の落着いた足どりで、自動車の込合った中を通り抜けて、銀座の方へ急いだ。勝子は東京郊外に住んではいても、銀座へは一年に一度か二度しか来なかった。郊外の下宿から、毎日体操教師として近くの小さい女学校に通うほかには、滅多に外に出たことがなかった。やや茶色がかった皮膚には健康らしい艶《つや》があって、体全体の格...