幼くして家族を失った彼女にとって、片時も離れずそばにいた彼は、実の弟のような存在だったと思います。そんな彼女は死してなお、彼の身を常に案じているのでしょうね。池の辺でマンドリンの音がするのも、彼を此方へ呼んでいる訳でなく、笑顔を見せて欲しいだけなのでしょう。大切な人が自分を想い、顔に影が落ちるのは、決して嬉しくありませんから。そして彼もまた、命を賭してまで自分の身を案じてくれていた彼女の存在を、一生抱えて生きていくのでしょう。自身の幼少期の彫刻と共に、彼女の姿が見えたのも、彼は思い出せずにいるだけで、きっと心の奥底に幸せだったひとときが、大切に大切に仕舞われているのです。
私の幼年時代におしずみたいな人はいなかったのに、まるで似たような追憶があったように懐かしく悲しい気持ちになる。
この人の作品は昔から何度読んでも胸がいっぱになり涙してしまうものがありますね。