首相の思出
そうりだいじんのおもいで
初出:「少年 第二〇四号(歴史小説号 八月号)」時事新報社、1920(大正9)年7月8日分量:約8分
書き出し:昔、独逸《ドイツ》のある貴族の家に大へんに可愛らしい、さうして美しい少年がありました。両親が非常に厳格だつたので、少年は無暗に外へ遊びに出ることが出来ませんでした。然し御殿のやうに立派な少年の室には、あらゆる書物や遊び道具がすつかり備へられてあつたから退屈をするやうな事は決してなかつたのです。遊び相手の召使も大勢居たけれど、何故か彼はそれ等の人達にとりまかれて、若様、若様とちやほや騒がれるよりも、...