この話の中に出てくる性的欲求や性欲は、「エロ」や「スケベ」ではなく 「妖艶」や「官能」と言ったニュアンス。 そのため、女性の行動ひとつひとつの描写が美しくかつ丁寧に書かれている。 性と生と死が渦巻く、まさに当時の少年時代の話
湿っぽい金沢、清い流れの犀川、お寺と郭に囲まれた街の中で多感な青春時代が過ぎゆく。結核による死さえも柔らかく包み込んで物語は展開する。全ての人に我が青春を想い出させるであろう。
若い血潮が 逆流するような 青春の真っ只中にいて 友人が 女の子に ちょっかいを出すのを 呆気(あっけ)にとられて 傍観しているけど 井戸の水は荒いからと 父に言われ 柔らかな川の水を 汲みに行き 親子で 茶を味わったりもする。
美人が犯罪を犯しても、許されるような気がする、気持ち。 わかる。 芸術は美しく、芸術の前では公然猥褻も違法性は阻却される。 主人公が賽銭泥棒の女を庇うシーンが印象的だった。手紙で警告する。素直に改心する女。女に近づきたい主人公。逆に女の持ち物を盗み出す主人公。また返す主人公。 第三者には理解できないこころ模様。 わかる。 気がする。
題名に当惑するが、なんと純粋で美しく、哀楽に富んだ青春小説であろうか。詩作へのひたすらな打ち込み、kに対する羨望的な友情と死別の悲しみ、異性に対する可愛い好奇心。 養父、母親、姉 に ついての記述 等から著者の優しさと謙虚な性格を感じる。 自伝的な室生の本作品は、茶の湯や酒造に使うさい川の清流の音に満ち、城下町金沢に育まれ、覗き見や、下駄泥棒等の悪戯にもかかわらず、しっとりとした落ち着きを感じさせる。