「世間師」の感想
世間師
せけんし

小栗風葉

分量:約48
書き出し:一それは私がまだ二十《はたち》前の時であった。若気の無分別から気まぐれに家を飛びだして、旅から旅へと当《あて》もなく放浪したことがある。秋ももう深《ふ》けて、木葉もメッキリ黄ばんだ十月の末、二日路の山越えをして、そこの国外れの海に臨んだ古い港町に入った時には、私は少しばかりの旅費もすっかり払《はた》きつくしてしまった。町へ着くには着いても、今夜からもう宿を取るべき宿銭もない。いや、午飯《ひるめし》...
更新日: 2025/03/03
decc031a3fabさんの感想

おそらく互いに名前も知らない、小さな流しの商売人達が宿にする海辺の木賃宿。主人公の旅の青年は、まるで迷い込んだように、そこにねぐらを得、アルバイトのような手伝いの口を得て、彼らと交流する。 格好にこだわらないと言えば良いが、情や縁という他人との心の交流も薄い銭占屋の生き様。かつての生活を取り戻そうと苦労を耐えるうち、流れ稼業が板に付いた万年筆売りの夫婦。彼らと交わった主人公が、哀愁を胸に旅を終わりにすることを決めるという結末は、実は誰でも他人の人生に影響を与えることが出来る、捨てたものでは無いという話のように思ったな。