「ある完全犯罪人の手記」の感想
ある完全犯罪人の手記
あるかんぜんはんざいにんのしゅき
初出:「黄色の部屋 第四巻三号」1952(昭和27)年12月10日

酒井嘉七

分量:約22
書き出し:○月○日私はいつものように、まだ川の面や町全体に深い靄のかかっているうちに朝の散歩を急いだ。人に顔を見られることを、これほど嫌うようになったのも、精神的な病気が昂進しているためであろう。平静に思索することが可能なのは、このミルクの海を泳いでいるような、深い靄の中の散策をつづけている十数分数十分のうちに過ぎない。それとても、突然として白い幕の中から現われる思いがけない人の姿によって破られてしまうこと...
更新日: 2018/09/22
ハルチロさんの感想

犯罪小説、推理小説を結末から読めば、その数頁で、作品の全貌が明らかになるが、同時に、作品の“重み”が軽減する。しかし、本作品は、例え、結末を知ろうとも、その“重み”が、「軽減した」とは感じられないのではなかろうか。話の進行は、日記形式で、主人公の心の葛藤を追っている。そして、主人公自身の生い立ちが、“靄”の中から現れた“真実”と合致した時、その衝撃は如何ばかりか。主人公の心情を思うと暗澹としてくる。