酒井嘉七
犯罪小説、推理小説を結末から読めば、その数頁で、作品の全貌が明らかになるが、同時に、作品の“重み”が軽減する。しかし、本作品は、例え、結末を知ろうとも、その“重み”が、「軽減した」とは感じられないのではなかろうか。話の進行は、日記形式で、主人公の心の葛藤を追っている。そして、主人公自身の生い立ちが、“靄”の中から現れた“真実”と合致した時、その衝撃は如何ばかりか。主人公の心情を思うと暗澹としてくる。