「街の幸福」の感想
街の幸福
まちのこうふく
初出:「童話文学」1929(昭和4)年7月

小川未明

分量:約11
書き出し:盲目《めくら》の父親《ちちおや》の手《て》を引《ひ》いて、十二、三|歳《さい》のあわれな少年《しょうねん》は、日暮《ひぐ》れ方《がた》になると、どこからかにぎやかな街《まち》の方《ほう》へやってきました。父親《ちちおや》は、手《て》にバイオリンを持《も》っていました。二人《ふたり》は、とある銀行《ぎんこう》の前《まえ》へくると歩《あゆ》みをとめました。そこは、石畳《いしだたみ》になっていて、昼間《...
更新日: 2022/05/26
cdd6f53e9284さんの感想

文章の書き出しを「貧しいバイオリン弾き」と書き掛けて、ハタと考えた。 このお爺さんは、かつてはプロフェッショナルなバイオリン弾きだったのか、それとも手にしたバイオリンはただの小道具で、それが三味線でも尺八でも良かったのだとしたら、話は全然違ってくる。 例えば、かつては名バイオリニストの爺ちゃんが、何かの事情で華やかな場所から路地裏に身を隠していたのだが、その孫というのが美声の持ち主で、その才能を見抜いた爺さんが陰ながら尽力して少年を有名音楽コンクールで優勝させてしまうというストーリーのまず手始めのデビューというのが、この夜の街角、銀行前の一場面というのだったら、話は美空ひばりが主演した映画のような筋書きみたいになるのだろうが、どうもそんな感じではなさそうだ。 もっともっと陰気な貧困のスパイラルみたいな話のようだ。 お爺さんに死なれてしまった少年は工場の労働者になるのだが、機械事故で体に障害を負ってしまい、あのお爺さんと同じように自分もまたバイオリン片手に銀行前の同じ場所に立って通行人に銭を乞う身となる。 あの当時あったタバコ屋さんは、今もあるけれど、あの時の娘さんはもういない。という物語。 作者は、この最後にどのような感慨を読者に期待しているのだろうか。 また、あの少年の時に受けたと同じような同情を期待しているのだとしたら、処置なしだ。