凍える女
こごえるおんな
初出:「三田文學」1912(明治45)年1月号分量:約27分
書き出し:一おあいが村に入って来たという噂が立った。おあいを見たというものがある。また見ないというものがある。見たという人の話によると、鳥の巣のような頭髪《かみのけ》を束《つか》ねて、顔色は青白くて血の気のない唇は、寒さのためにうす紫色をしていた。背には乳飲児《ちのみご》を負《おぶ》って、なるたけ此方《こっち》の顔を見ないように急いで、通り違ってしまった。きっと、森の中の家に来ているのだろうといった。村の北...