過ぎた春の記憶
すぎたはるのきおく
初出:「朱欒」1912(明治45)年1月号分量:約15分
書き出し:一正一《しょういち》は、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供|等《ら》と多勢《おおぜい》でよくかくれんぼうをして遊んだ。晩方《ばんがた》になると、虻《あぶ》が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。大きな石がいくつも、足許《あしもと》に転がっている。其処《そこ》で、五六人のものが輪を造って、りゃんけんぽと口々に言って、石と鋏《はさみ》と紙とで、拳《けん》をして負...